できたてチーズが食べられる新ブランド「FRESH CHEESE STUDIO」で、国産乳製品の価値を高めたい【プロジェクト座談会】
ふわふわ、とろとろ、できたてのフレッシュチーズ……そんな極上の味わいが、表参道で楽しめることをご存じですか?
国産乳製品の魅力を伝える新ブランド「FRESH CHEESE STUDIO」が、初の常設店舗となる「FCS cheese & café 表参道」を2024年11月にオープンしました。十勝の生乳のおいしさをそのまま閉じ込めたブッラータチーズを、よりすぐりの国産食材とともに楽しめます。
このブランドは、社内公募で集まったメンバーが新規事業創出を目指す(株)明治のプログラム「mBD(meiji Business Development)」から生まれ、初めて事業化に至ったプロジェクト。営業・マーケティング出身の藤本 和英さん、研究・技術出身の小森 素晴さん、工場出身の原田 悠暉さん、人事出身の桑畑 遼さんに、ブランドに込めた思いや今後の展望を聞きました。
できたてチーズのおいしさを最大限に楽しめるカフェ
藤本:まずは、2024年11月にオープンした「FCS cheese&café表参道」の紹介をさせてください!
この店舗では、毎日作りたてのブッラータが楽しめます。ブッラータとは、巾着状のモッツァレラチーズにストラッチャテッラ(=繊維状にちぎったモッツァレラに生クリームを加えたもの)を包んだ、個性派のチーズのこと。表面をお箸でカットすると、中から濃厚なストラッチャテッラがあふれ出してきます。
とろとろのおいしさを余すことなく味わえるようにボウル型の器で提供するのが、看板メニューの「ブッラータボウルシンプル」です。
桑畑:実は、今回の店舗オープンに先立ち、2024年6月から8月にかけて軽井沢エリアにおいて実証実験を行っています。そこでは、“できたての魅力がお客さまに伝わるか”、“フレッシュチーズが食事の主役になれるのか”、などを検証していきました。実際に、おしゃれなサロンをお借りして、前菜からデザートまでチーズづくしのコース料理を提供してみたり、旧軽井沢の観光地にキッチンカーを持ち込んでテイクアウトメニューを販売してみたり。こうした取り組みの中で、ブッラータチーズが主役となり、ほかのいろいろな食材がその味わいを引き立て合うイメージを描いてブッラータボウルにたどり着き、お客さまからも好評をいただきました。
さらに、トッピングにおいても生産者のこだわりやストーリーが見えることでブランドに深みが増すと考えて工夫しています 。都内での店舗オープンにあたっては、生ハムやフルーツ、パンなども国産中心に食材を選定しました。静岡のオリーブ農家とコラボした“搾りたて”オリーブオイルと“できたて”のチーズのペアリングもオススメです。
藤本:2024年12月からは十勝の3種類のじゃがいもとチーズを組み合わせた、温かいスープのメニューも登場しました。日本でできたてのフレッシュチーズを食べられるお店はなかなかないので、周辺に住む方だけでなく、外国人観光客の方々にも楽しんでいただけていますね。店舗ではもちろん、各種チーズのテイクアウトも可能です。
日本の乳製品の魅力を伝え、価値を高めたい
桑畑:「FRESH CHEESE STUDIO」というブランドが生まれたのは、社内公募メンバーで新規事業を創出するプログラム「mBD」から。人事畑の僕と営業・マーケティング畑の藤本さん、研究・技術畑の小森さんがたまたま同じチームに振り分けられ、“どんな新規事業ができるだろうか”という議論を何度も重ねて、「できたて乳製品」という事業プランが生まれるに至りました。
藤本:日本には「炊きたてのごはん」「入れたてのお茶」のように、繊細な味わいを楽しめる食文化があるから、きっと作りたてのチーズも評価されると思ったんです。これこそ、牛乳をずっと見つめ続けてきた明治だからこそできることじゃないかとも思いました。実際にイタリアで作りたてのチーズを食べたことがある小森さんにも「フレッシュチーズには“じゅわ”っとしたおいしさがあるんだよ、フジモン」なんて言われたりして(笑)。
小森:(笑)。本当においしかったんですよ。それに、乳製品の価値を高めていく事業は、明治にとっても社会にとっても有意義な方向性だと思いました。
桑畑:せっかくの新規事業なのだから、ただ利益を生むことばかり考えるのではなく、社会に貢献したかったんです。「FRESH CHEESE STUDIO」で使っているミルクは、十勝産の生乳ですが、その生乳のおいしさの背景には、日本の酪農家さんがずっと昔から真摯に取り組んできた酪農業の歴史があります。つまり、もともと日本にあったすばらしい食べ物の魅力を、僕たちメーカー側の工夫によって多くの人に知ってもらい、広く届けるビジネスをつくりたかったんです。
藤本:十勝の生乳ってクセが少ないんですよね。テスト販売したときには「普段はチーズが苦手なんだけど、これはおいしい」とおっしゃるお客さまがいらっしゃったのが印象的でした。
小森:フランスやイタリアのフレッシュチーズは酸味が強かったり、ニュージーランドなどオセアニアのチーズは牧草のにおいが強かったり。しかもフレッシュチーズはほとんど熟成せずに作るものだから、そういうクセがダイレクトに出てしまう。でも、「FRESH CHEESE STUDIO」で開発したチーズは酸味がほとんどなく生乳そのものの甘みが残っているので、日本人の食の好みにすごく合っていると思います。
桑畑:優しい甘みは、どんな食材とも相性がいい。企画を進めていくうちに、ミルクだけでなくさまざまな国産食材とコラボし、一緒に日本の食を盛り上げていく可能性も見えてきて、いっそうやりがいを感じました。
できたてチーズ完成の裏側。リリースイベント直前の緊迫感
小森:「FRESH CHEESE STUDIO」の事業を支えているのが、できたてチーズを生み出す「カード」(チーズの一歩手前である凝乳)です。これは、生乳に乳酸菌や乳を固めるレンネットという酵素を加え、豆腐のようにやわらかく固めてから余分なホエイ(乳清)を抜き、冷凍したもの。長期冷凍保存ができるうえ、電子レンジなどで加熱すると簡単にチーズになるため、ユーザーの好きなタイミングでおいしく味わえます。
原田:冷凍で届いたカードを工房で温めモッツァレラを作り、割いたモッツァレラとクリームをあえて巾着状に包んだのが、お店で提供しているブッラータチーズです。
小森:明治で乳製品の研究に約10年携わってきて、カードからモッツァレラチーズが作れることは当然知っていました。でも、通常のカードって乳酸菌の力で保存性を高めるから、どうしても酸っぱいヨーグルトみたいな風味になってしまうんですよ。だから、カードを冷凍して都内に運び、できたてをイートインやテイクアウトで楽しんでいただくためには、酸味を減らした上で保存しやすく、おいしいものを開発する必要がありました。
桑畑:それが開発できたら便利だし品質も高い。まさに思い描いたビジネスが実現できると思いましたね。
小森:酸味が少なくミルク風味を感じる味わいに加えて、プロの求める食感と扱いやすさを達成するのに苦労しました。お客さま向けのイベント直前に、試作品をイタリア料理のプロに見ていただいたら「ちょっと硬いですね」って言われて……。
桑畑:でも、開発チームがそこからわずか2週間でカードを改善し、ベストなやわらかさに仕上げてくれたのには感動しましたよね。
小森:研究所の方々がモチベーション高く取り組んでくださったのが大きいですね。前日まで作り込んで仕上がりをジャッジし、翌朝それを提供する……みたいなスピード感で仕事を進めることができました。試作品をわざわざ手持ちで現場に運んでくださって、すごくタイムリーに動いていたことが記憶に新しいです。
桑畑:明治の商品開発は、ひとつの製品をつくるのに半年や一年くらいの時間をかけてじっくり進めていくのが通常のプロセスです。でも、新規事業という枠組みだからこそ、前例のないスピード感や日々変わる前提への対応がスムーズにできたと感じます。また、カードからできたてチーズが簡単に作れてしまうので、お子さまへの食育活動の一環としてチーズ作り体験を開催したり、各地域の採れたて食材や特色のある食材とコラボして、食を通じた地域活性化につなげたり、といった社会的な意義のある活動にもつなげられると良いなと思っています。
多様なメンバーの強みを活して、事業を広げていく
小森:この事業が形になったのは、メンバーそれぞれの強みが活かされたからだと思います。藤本さんはこれまでお付き合いがなかった取引先や業者さんなどを飛び込みで商談して味方にしていく営業力がありますし、とにかく、先陣を切る突破力がすごいです。次に、クライアントやお客さまが望むものを具現化していくのが、ものづくり担当の私と原田くんです。原田くんはプロジェクトの途中から、現場での品質管理や食品安全マネジメントを見るために入ってきてくれて、すごい速さでいろいろな課題を解決してくれました。
原田:明治の名前を背負って食品の製造や飲食店をやるということは、大きなプレッシャーでしたね……。でも、立ち上げメンバーだったお三方の計画力や巻き込み力のおかげで、思いきりチャレンジさせてもらえたなと感じています。
小森:それから実際に売るフェーズに入るとき、さまざまなリソースや物事を全て整えてくれたのが桑畑さんです。お客さまの声も拾いながら、冷静な分析を加えてプロジェクトを前に進めてくれた。
桑畑:改めて、いいチームですよね。その成果のひとつが、「FCS cheese & café 表参道」出店だと思います。ただ、僕らにとって店舗はあくまでも「できたてのチーズを発信する入口」です。お店をきっかけに、できたての乳製品が持つ魅力と「FRESH CHEESE STUDIO」というブランドを知ってもらい、さまざまな挑戦をしていきたい。レストランやシェフといった飲食のプロに僕らのカード「十勝カリアータ」を提供し、いろいろなかたちでできたてチーズをおいしく味わっていただけるコラボにつなげたいと思っています。
「FRESH CHEESE STUDIO」のカードは、どこにでも運べるのが大きな特長です。海外に持って行って現地でできたてのチーズを作れば、日本の乳や食材のおいしさを世界に届けることも夢じゃない。日本の食文化に貢献できるブランドになれるよう、これからも力を尽くしてビジネスを広げていきたいですね。